2023年5月4日

積ん読(つんどく)の本たち

実家にある大きな父の本棚に一冊の本を見つけた。かねて自分が何度も挑戦しながら、読了(どくりょう)できないでいる本だった。手にとってみて気づいた。刺繍(ししゅう)入りの栞(しおり)が前のほうのページに挟まったままになっている。たったそれだけのことだが、父親をとても近くに感じた▼読みたいけれど、読めない。積ん読というものは何とも悩ましい。どこか後ろめたく、読むと読まないの間の灰色地帯(ちたい)で、ときに溺れかけて(おぼれかけて)いるような気にさえなる▼黄金週間も半分が過ぎた。机のうえに積んだままになっている書籍を、連休中にまとめ読みしよう。積ん読の本たちの「早く読んでくれ」との声が聞こえる。そんな方(かた)もいるのではないだろうか▼でも、大概(たいがい)うまくいかない。積ん読という言葉は案外と古い。都立中央図書館が調べたところ、起源ははっきりしないものの、江戸時代には「つんどく」や「積而置(ツンドク)」との表現が書籍に記されていたとか▼同図書館による積ん読ランキングで、第1位はプルースト[0]『失われた時を求めて』。難解さ(なんかいさ)で知られる古典ばかりでなく、辻村深月(つじむら みづき)[1]『かがみの孤城』やユヴァル・ノア・ハラリ[2]『サピエンス全史』といった最近のベストセラーも上位に並ぶ▼我が親子がそろって苦闘したのは知の巨人、加藤周一[3]の著書だった。なに、気にしまい。積ん読も読書のひとつだ。読了しても、ほとんどの内容をすぐに忘れてしまうのも人間である。AIにはできまい、この緩さ(ゆるさ)。そう開き直って何回目かの最初のページを開く。


[0] ヴァランタン=ルイ=ジョルジュ=ウジェーヌ=マルセル・プルースト(フランス語: Valentin Louis Georges Eugène Marcel Proust, 1871年7月10日 - 1922年11月18日)は、フランスの小説家。畢生の大作『失われた時を求めて』は後世の作家に強い影響を与え、ジェイムズ・ジョイス、フランツ・カフカと並び称される20世紀西欧文学を代表する世界的な作家として位置づけられている

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[1] 辻村 深月(つじむら みづき、1980年2月29日 -)は、日本の小説家。山梨県笛吹市(ふえふきし)出身。

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[2] ユヴァル・ノア・ハラリ (ヘブライ語: יובל נח הררי‎、英: Yuval Noah Harari、1976年2月24日 - )は、イスラエルの歴史学者。ヘブライ大学歴史学部の終身雇用教授 。世界的ベストセラー『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』、『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』の著者。著書では自由意志、意識、知能について検証している。

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[3] 加藤 周一

(かとう しゅういち、1919年(大正8年)9月19日 - 2008年(平成20年)12月5日)は、日本の評論家、小説家。医学博士(専門は内科学、血液学)(かとう しゅういち、1919年(大正8年)9月19日 - 2008年(平成20年)12月5日)は、日本の評論家、小説家。医学博士(専門は内科学、血液学)

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