2023年5月21日 5時00分

ゼレンスキー氏の広島訪問

 戦時下にある国のリーダーはいかなるものであるのか。きのう電撃的な広島入りを果たしたウクライナのゼレンスキー大統領の姿は、そのひとつの形をはっきりと示しているように見える▼「人間は理屈によって納得するが、感情によって動く」。ニクソン元米大統領がそんな言葉を残している。「指導者は歴史の力になるような電撃的なアイデアにたよって、事を運ばなければいけない」。突然の驚き(おどろき)を伴う広島訪問は、それ自体が世界の人々の気持ちに触れたのではないか▼昨年2月のロシアの侵攻までは、支持率が低迷していたというから不思議なものだ。戦争が始まってから存在感が増したのは、多くの国民の意を受け、対決姿勢を強調しているからなのだろう。戦時に求められるのは、常に強いリーダーということか▼精力的に世界を回る目的も、軍事力などの支援を得るためである。先日も欧州諸国を訪ねたばかりだった。戦争は政治の延長である。ロシアからすれば、さぞ嫌な動きに違いない▼今回の広島訪問について、どこか割り切れない感情を持つ人もいるのかもしれない。戦争で使う武器を求めに来るのに、被爆地ほどふさわしくない場もなかろうとも思う。だが、非道な侵略を受けている側にそれを言うのは、何とも酷だろう(こくだろう)▼「平和はきょう、より近づく」。ゼレンスキー氏は広島に着いて、すぐにツイッターでつぶやいた。その言葉が現実となるような議論を、G7に集まった各国リーダーたちには求めたい。

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ゼレンスキー大統領ってどんな人? 人気コメディー俳優から祖国を守る最前線に

 強大なロシア軍の全面侵攻に、一歩も譲らずに応じるウクライナのゼレンスキー大統領(44)の毅然とした態度が、国民の共感を呼んでいる。会員制交流サイト(SNS)を駆使して愛国心を鼓舞するメッセージを連日のように発信し、国民は「戦時大統領」の下、結束を強めている。(元モスクワ支局・滝沢学)

 「わたしはここにいる。われわれが武器を置くことはない」  ゼレンスキー氏は侵攻3日目の26日、首都キエフで自撮りした動画を公開。ロシアの暴挙への怒りと抵抗の意志を国民に示した。「大統領が抗戦をやめるよう呼び掛けている」。ネット上に拡散した偽情報を一蹴し、サイバー空間での戦闘にも参戦した。  ロシアとの停戦交渉を控えた28日、ビデオ声明で「少しでも戦争を止めるチャンスがあったなら大統領として何もしなかった、ということがないように」と説明した。  ショービジネスの世界を通じてロシアとも深いつながりがあったコメディー俳優だった。大統領の座に押し上げたのは「既存の政治家には国を変えられない」との有権者の強い思い。2019年4月の大統領選の得票率は73%で、現職ポロシェンコ氏を50ポイント近く引き離す大勝利だった。

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◆教師が大統領に…ドラマは現実に

 「型破りの政治経験」を積んだのは、15年に始まった主演人気テレビドラマ「国民の奉仕者」。教師の男が政治腐敗への怒りを捲し立てる(まくしたてる)様子を生徒がこっそり撮影。動画が世間の注目を集め、教師が大統領になるサクセスストーリー(success story、出世物語)。ドラマは現実になった。ただ就任後は目立った実績がなく、侵攻前の支持率は20%台と低迷した。  一方で「戦火を止める」との信念は揺るがなかった。大統領就任の演説ではロシアとの東部紛争に触れ、ウクライナ語からロシア語に切り替え、こう強調した。「クリミアもドンバス(ウクライナ南東部)もウクライナの土地だ。われわれが失った最も重要なものは人だ。ウクライナ人だ」  プーチン政権にとって真の脅威は「政治の素人」であっても国家のリーダーになれる民主的な政治体制かもしれない。ウクライナ国民はいま、かつてないほど団結している。


「ウクライナの人たちは中東とは違うよね。戦争の時、中東だったら、『神のためだ!』とか『指導者万歳!』ってすぐなっちゃう人もいるけど、ここはそういうふうにはなっていない」

 と言っていた。私は中東には好きなところもあるので、あまり悪くは言いたくないのだが、確かに「我々には独裁的なリーダーが必要」と平然と言う中東の人が時にいる一方で、ウクライナではそういう声は聞いたことがない。

 人々は「ゼレンスキーにはしっかりと頑張ってもらおう。そして自分たちもできることをしよう」と考えているようにみえた。