2023年9月24日 5時00分
便利とは何だろう?
『ドラえもん』に出てくるセワシくんは、のび太(のびた)の子孫である。彼は22世紀の世界に暮らしているが、あまり幸福そうには見えない。未来人たちには便利な道具がたくさんあるのに、現代人と同様に、ときに空虚な(くうきょな)笑いを浮かべ、妙に言葉にとげがある。なぜだろう▼ひとは便利な道具だけでは幸せになれない。のび太を幸福にするものは、どこでもドアとかタケコプターではなく、ドラえもんとの友情なのだ。人気漫画はそんなことを教えてくれていると、ずっと思ってきた▼でも、最近は別の疑問も感じている。科学の進歩で、ドラえもんの道具に近いものが次々と現実になりつつある時代、便利の意味がよく分からなくなってきたからだ。何でもスマホで手続きするのが、本当に便利なのか。そもそも便利って何なの?▼アイフォーンの新機種「15」が発売された。新しい機能が満載(まんさい)らしい。楽しみだという人も多いようだが、私の気持ちはワクワクにはほど遠い。スマホも家電も車も、頻繁に買い替えを迫られる(せまられる)。もう十分だと思ってしまう▼いまあるものを修理し、使い続けるのが、どうしてこんなに難しいのだろう。「古くならぬことが新しいのじゃないですかね」。昭和の映画監督、小津安二郎(おず やすじろう)の名言を思い出した▼変わる大切さとともに、昨日と同じように今日があることの尊さ(とおとさ)を噛み締める(かみしめる)。私たちはもう立ち止まれない(たちどまれない)のか。もしもそう問えば、ドラえもんは何と答えるだろう。どんな道具を、出してくれるだろう。