2023年9月20日 5時00分
見えない「それ」の怖さ
世間が「アレ」で盛り上がるなか、「それ」のことを考えていた。なんのこっちゃだが、人工知能(AI)である。公開中の映画『ミッション:インポッシブル』のシリーズ最新作に登場する主人公の敵が、「それ」と呼ばれるAIなのだ。意思を持ち、人間の心をよむ▼暴走した「それ」は潜水艦を自爆させたり、膨大(ぼうだい)な情報から翌日に起きることを予知したりする。恐ろしくも興味深いのは、人知(じんち)をはるかに超えたAIに群がる(むらがる)人間だ。権力者は止めるどころか世界を支配するために利用しようとする▼こんな時代が本当に来るのだろうか。『人類滅亡(めつぼう)2つのシナリオ』を著した北大客員教授の小川和也(こがわ かずや)さん(52)は、「もうSFの次元ではないのは確かです」と言う。AIの進歩で「自分の頭で考える機会が減って、人間が退化する危険すらある」とも▼最悪の事態を避けるには、「超知能は絶対に生み出さない」という共通の決意が必要だと小川さんは話す。でも、常に争ってきた人間が、国や文化を超えて団結できますか。恐る恐る尋ねると、「宇宙人が攻めて来ない限り、無理だと思うこともあります」▼AIについて考えると結局、「人間とは何か」という問いに行き着く。助け合い、広い視点で考えながら、人間は進化してきたのだ。エゴを抑える理性や倫理観は、生き続けるための知恵でもある▼冒頭の映画で「それ」は何も恐れず、迷うこともない。そんなAIを怖いと感じる自分の心が、いまはとても大切に思える。
- こっちゃ(連語)
- ① 「ことでは」の転。「そんな―あかん」「だから言わない―ない」
- ② 「ことじゃ」の転。ことだ。主に関西地方で用いる。「えらい―」「何の―」
人間到る処青山有り(じんかんいたるところ せいざんあり)