2023年9月15日 5時00分

リビアを襲った洪水(おそったこうずい)p.m.

 ヒラリー・クリントン氏が米国務長官だったとき、2011年のことだ。「アラブの春」と呼ばれた中東の民主化の動きを受け、42年に及んだリビアのカダフィ政権の独裁は崩壊した。直後に軍用機で首都トリポリ入りした彼女はその体験を、感慨深く回想録に記している▼彼女に強い印象を与えたのは、民主国家を目指す若者の「思慮深さと決意」だった。「言論の自由を根づかせるために、どのような段階を踏めばいいと思われますか」。何人もの学生が真摯(しんし)な質問をぶつけてきたという▼彼女が何と答えたかは回想録に記述がない。おそらく民主化が容易でないと、分かっていたからだろう。「国の将来を形作る(かたちづくり)のは民兵の武器だろうか、それとも人々の切望だろうか」。そんな感想だけが書かれている▼現実に、リビアは流血と混乱の内戦に陥った。部族や地域が対立し、国際社会の関与も分かれた。いまや国家分裂の危機にある。民主が語られた春の季節は一瞬で過ぎ去り、過酷な夏が居座っているかのようである▼そんな国が、大災害に見舞われた。地中海(ちちゅうかい)に面した港町(みなとまち)を暴風雨(ぼうふうう)が襲い、ダムが決壊(けっかい)したという。行方不明者1万人との情報に思わず息をのんだ▼遠く北アフリカの地を思う。アラブ圏には「世界は、最後まで耐えている人の側につく」とのことわざがあるそうだ((その あやこ)著『アラブの格言』)。苦しみ、悲嘆にくれる人々にさらなる忍耐を強いるわけにはいかない。何とか支援の手を、届かせたい。早急に。