2023年7月31日 5時00分
女子サッカーの現在地
私を忘れて――。そう言い残してピッチを去った女子サッカーの選手がいる。元米代表のアビー・ワンバックさん(43)だ。アテネとロンドンの五輪で優勝し、ワールドカップにも4度出場した。8年前に引退した際、仲間とファンへ印象的なメッセージを送った▼私の背番号も、取ったメダルも、破った記録も忘れて欲しい。なぜなら「私がもう記憶されないくらい、次世代に偉大なことを成し遂げてほしい」から。男性優位の競技で待遇差や偏見に立ち向かった姿が、自著『わたしはオオカミ』に記されている▼女子サッカー人気が高い米国でも男女格差は根強い。報酬に不満な選手たちは連邦政府機関に訴えたり、米サッカー連盟を提訴したりしてきた。ようやく昨年、W杯の報奨金で男女の待遇を同じにすることなどで合意した▼この格差は日本でも深刻だ。特にバブル崩壊後の1990年代後半からは、「冬の時代」だった。企業が次々とリーグから撤退して、存続も危ぶまれた。2011年のW杯で優勝した後ですら、エコノミークラスでの移動が普通だった▼そんな苦難の時期を経て、日本代表がきょう、W杯でスペインと対戦する。すでに2連勝し、決勝トーナメント進出を決めた。今回は初めてチャーター機で現地入りし、専属シェフもいると聞いてほっとする▼プロ化が進んだ欧米と比べ、日本には課題も多い。それでも、サッカー選手にあこがれる次世代の女の子たちにとってお手本になり得る。この意味は大きい。