2023年7月19日 5時00分

高校野球とデータ

 「めちゃくちゃ面白い。頭を使いますからね」。元大リーガーのイチローさんが3年前、高校野球の魅力(みりょく)をこう表現した。根底(こんてい)にあるのは、データ一辺倒(いっぺんとう)でなく選手が個々で考えるべきだとの思いだ。引退後、各地の高校を訪ねて野球指導(やきゅうしどう)をしている▼各地の地方大会をみると、高校野球でデータ活用が進んでいるのがわかる。打者で大胆(だいたん)に守備位置を変えたり、特定の球種に狙い(ねらい)を定めたり(さだめたり)。相手の試合映像などを分析するデータ班がある学校も増えたという▼時代の流れは根性論(こんじょうろん)も合理性へ変えた。熱中症対策で選手らはこまめに水を飲む。「黒の単色(たんしょく)」が決まりだったスパイクは白もはけるようになった。猛暑下(もうしょか)で、色の違いは約10度の内部温度差を生む▼きのうの東東京大会3回戦では、変わらぬ光景もあった。イチローさんが指導した新宿高は初回、無死一塁からバントを決めた。続く打者が二塁打で先制し、7回コールド勝ちに。これぞ高校野球、という試合運びだった▼順天堂大(じゅんてんどうだい)の姫野龍太郎(ひめの りゅうたろう)・特任教授によると、チーム数が限られた大リーグやプロ野球と高校野球ではデータの活用法が異なる。「高校ではけがをしないフォームなど、選手一人ずつの能力向上に使うべきだ」と話す▼統計理論が注目されて久しい大リーグでは最新機器でデータ分析し、戦術や選手の評価に使う。打率より出塁率(しゅつるいりつ)や長打率(ちょうだりつ)を重視し、バントや盗塁(とうるい)を良策(りょうさく)としない。野球がつまらなくなったとの声もあるが、要はバランスの問題なのだろう。