2023年7月13日 5時00分
国際数学オリンピック
数学が苦手な生徒は往々(おうおう)にして、正解ではなく、ある疑問にたどりつく。いわく、何でこんな勉強をするのか。将来、いったい何の(なんの)役に立つというのか。10代の筆者もよく、そんな嘆きを重ねていた▼ああ、そうかと気づいたのは、藤原正彦(ふじはら まさひこ)さんの著書『数学者の言葉では』を読んだときだ。「役に立たない、というのは、価値がないということではない」と数学者は説いた。大切なのは何かを深く考えること。すぐに成果が出ずとも、その行為がいかに尊いかを教えられた▼彼らもまた、そんな深遠(しんえん)な世界に魅了されているのだろう。国際数学オリンピックが20年ぶりに日本で開かれた。世界各地から集まった若き天才は約600人。1位が中国、2位が米国だった▼日本も6位と健闘した。「数学は紙とペンさえあればできるけど、奥が深いです」。金メダルをとった都立武蔵高(むさしこう)3年の北村隆之介(きたむら りゅうのすけ)さん(17)はうれしそうだった。ひとつの問題を解くのに、何十時間も考え抜くことがあるとか▼卓越した才能たちにとって、この数学の五輪は格好の晴れ舞台だ。同時に、数学好き(すうがくずき)の裾野(すその)を広げる効果にも期待したい。より多くの人の関心を呼べるような、仕掛けづくりがあればと思う▼数学は万人をひきつける美しさを持っている。「真理の探究とやらでゆうゆうと時間つぶしをするのは、最も人間らしい生き方なのかも知れない」。藤原さんはそうも書いている。世界レベルにはほど遠くとも、私なり、自分なりの探究を楽しみたい。