2023年7月11日 5時00分

6月に雪が飛ぶ

 梅雨(つゆ)の合間の青い空には、ハクチョウゲの小さな白い花がよく似合う。漢字では白丁花(はくちょうげ)と書くが、お隣の国、中国では「六月雪(リウユエシュエ)」である。旧暦の6月はちょうどいまごろ、7月から8月にかけてか。緑の葉に白がポツポツある様が、季節外れの雪に見えるということらしい▼ただし、花ではなく、これが本物の雪ならば、まったく別の話となる。「六月飛雪(リウユエフェイシュエ)」。かの国の古人は冤罪(えんざい)事件をそう記した。無実の罪で処刑された人の怒りや苦しみが天を突くとき、季節は狂い、雪が風に舞うという▼まさか、そんな雪を降らしたいのだろうか。袴田巌(はかまた いわお)さんの裁判をやり直す再審公判で、検察が有罪を立証すると言い出した。無罪確定がほぼ確実とされた裁判なのになぜ、87歳にもなる人の審理を長引かせるのか▼「検察だから、とんでもないことをすると思っていました」。姉の秀子(ひでこ)さんが不信感を露わ(あらわ)にするのは当然だ。死刑判決の根拠とされた証拠は、捏造(ねつぞう)の疑いが「極めて高い」とまで裁判所に指摘された。検察はこれが不満でならないのだろう▼きのうの説明でも証拠は「不自然でない」などと従来の主張を繰り返した。さて、世の人々の目にはどう映ったことか。巨悪(きょあく)を倒すべき検察官が小さなメンツに固執(こしつ)し、組織防衛に汲々(きゅうきゅう)としているようで何とも情けない▼雪の字には降る雪のほかに、そそぐ、すすぐの読みもある。異常気象に悲しみを重ねるのはもうたくさんだ。袴田さんの汚された名誉は、速やかに雪がれる(すすがれる)べきである。