2023年7月28日 5時00分
大阪万博(おおさかばんぱく)のパビリオン
巨大なエアドームのアメリカ館、赤い曲線が空に伸びるソ連館……。1970年の大阪万博(ばんぱく)だ。多くのパビリオン(pavilion)のどこを巡るか。漫画家・浦沢直樹(うらさわ なおき)さんの『20世紀少年』で、主人公ケンヂたちは頭を悩ませる。奇抜な(きばつな)建築は輝かしい未来の象徴だった▼2025年の大阪・関西万博(かんさいばんぱく)の光景を楽しみにする少年少女もいるだろう。だがいま聞こえてくるのは、槌(つち)の音よりも関係者の嘆きの声だ。独自にパビリオンを用意するはずの56カ国・地域のどこからも、いまだに建築申請が大阪市に出てこない▼「さんざん『こんなんじゃ間に合わないですよ』と言っているのに」。先日の記事にゼネコンの訴えがあった。建設業界は昨秋には、各国と調整するよう万博協会に求めていたという。そら見たことか、と言いたい気分なのかもしれない▼不安なのはスケジュールだけではない。国、大阪府・市、経済界で分担する会場建設費は、当初1250億円だった。暑さ対策などで1850億円に増えたが、建設の遅れや資材の値上がりで、さらに膨らむのかどうか▼作家の半藤一利(はんどう いちり)さんの言葉を思い出す。日本人は往々(おうおう)にして「起きて困ることは、起きないのではないか」「起きないに違いない」「絶対に起きない」と思い込むくせがあると指摘していた(『今、日本人に知ってもらいたいこと』)▼10億を英語でビリオン(billion)という。〈パビリオン 幾(いく)ビリオンの持ち出しか〉。朝日川柳にあった。そんなことは「起きない」と願いたいが、さて(now、well、ところで, では)。