2023年7月21日 5時00分
孤食(こしょく)のレシピ
オムレツにスープ、ケーキ。外食費が高いオーストラリアで働いていたころ、20代の現地スタッフが何でもマグカップでつくるのに驚いた。材料をカップに入れ、電子レンジでチン。数分で昼食(ちゅうしょく)が完成する。味見させてもらうと結構おいしい。彼女に聞いてレシピをネットで調べたら無数にあった▼くらし面の連載『きょう、誰と食べる? 孤食を考える』を読み、当時を思い出した。カップ料理のレシピは、どれも分量が1杯分。1人で食べる「孤食」の形態だと気がついた▼核家族化が進んで単身者も増え、孤食は世界的な傾向になりつつある。英国では成人の約3割が1人で食べるとの調査結果も。人気ユーチューバーが料理動画で使うのも、小さな鍋が多い▼文化人類学者の石毛直道(いしげ なおみち、1937年11月30日 - )さんらによる『食物誌』に、大正時代の茶わん蒸しのレシピが紹介されている。「鶏卵百匁(けいらんもんめ)、煮出汁七合(にだししちごう)」とあるが、何人前かが書かれていない。石毛さんは10人前ぐらいと推測し、材料の種類だけを記した明治からは進歩したと書いている▼同著によれば、1970年代前半に4人前が標準になるまでは6人前が多かったそうだ。長く4人前だった朝日新聞の『料理メモ』は、91年から2人前や単身者向けも扱うようになった▼大正から100年たち、ついに孤食が主流の時代が来るのか。健康への影響が気になるが、人数が多いほど食べる量が増えるとの論文もある。健康的で簡単で安上がり(やすあがり)で何人前にも応用できる。そんなレシピはないか。