2025年4月20日 5時00分
「風の塔」と復活祭
バチカンのサンピエトロ広場の北側に「風の塔」と呼ばれる高い建築物がある。観光客でにぎわう美術館から見上げられる場所に位置するが、非公開なので気づく人はほとんどいない。16世紀後半に、時のローマ教皇(きょうこう)グレゴリオ13世の命で建てられた▼20年ほど前に聖職者の招きで、塔内の「暦の間(こよみのあいだ)」を見せてもらったことがある。フレスコ画で描かれた壁の「南風の精霊(みなみかぜのせいれい)」の口の部分に太陽光が通る小さな穴があいており、床には子午線(しごせん)が刻まれていた。この日時計(ひどけい)で、教皇が暦のずれを確信したとも言われているそうだ▼教皇は1582年の回勅(かいちょく)でユリウス暦に終止符を打つ。。新たに採用されたのが、今に続くグレゴリオ暦だ。紀元前にユリウス・カエサルが定めて以来、実に1600年以上を経ての改暦だった▼温和な人柄だったとされるグレゴリオ13世だが、暦に関しては強固な姿勢で臨んだ。その動機は「復活祭の正しい日付を決める」ことにあったと、デイヴィッド・E・ダンカン著『暦をつくった人々』で知った▼復活祭はキリスト教で最も重要な行事(ぎょうじ)で、「春分に次ぐ満月の後の最初の日曜日」と定義されている。だがユリウス暦は実際の太陽の動きより1年で約11分長く、改暦時で約10日の誤差が生じていた。宗教改革で揺らぐ当時のカトリック教会にとって、威信をかけた修正だったのだ▼きょうは復活祭。今年は偶然、暦が異なる東方正教会(とうほうせいきょうかい)とも同日(どうにち)になった。誰にも等しく(ひとしく)流れる時間と暦の歴史に思いをはせる。