2025年4月9日 5時00分
女性アナウンサーの声
もっと、もっと大きな声で。NHKの前身にあたる放送局がラジオ放送を始めたのは100年前だ。初期のアナウンサーはとにかく大声(おおごえ)を出すようにと注意されたという。当時のマイクは湿気を吸うと感度が鈍くなるため、離れた場所から叫ぶように話す必要があった▼放送業界で働く女性たちが31年前に出した『放送ウーマンの70年』を読み、女性アナウンサーが重ねてきた苦労を思った。公募採用(こうぼさいよう)での初の女性アナは、初放送でアユの姿焼きの料理法を説明して時間ぴったりで終えた。大声と「女らしさ」の両立に悩んだという▼時は流れ、マイク感度は比べるべくもない。いま気になるのは、女性アナの声の大きさではなく高さだ。海外で見るニュース番組では低い声なのに、日本は細くて高い声が多い▼音声認知の専門家の山崎広子(やまさき ひろこ)さんは、小紙デジタル版で「日本人女性のしゃべる声は、世界でも最も高い部類だ」と話している。民放の女性アナ10人の声の周波数を測ると、米独中などと比べて格段に高かったそうだ▼山崎さんによると、高い声は「未熟、弱い、可愛い、保護の対象といったイメージと結びつく」という。そうあるべきだという偏見のもと、無意識のうちにのどに負担をかけて地声(じごえ)を変えさせられた女性もいるかもしれない▼先日公表されたフジテレビの第三者委の報告書には、女性アナへの対応に「所有物感(しょようぶつかん」を感じるという社内の意見もあった。誰のものでもない、自分の声で話せているか。考えてみる。