2025年2月26日 5時00分

編み物の楽しさとは

 最近、編み物(あみもの)がブームだという。草臥てきた(くたびれてきた)座布団カバー(ざぶとんかばー)を編み直そうと近所の100円ショップへ行ったら、毛糸(けいと)の棚が空っぽで驚いた。ネット上には簡単な小物(こもの)から複雑な模様(もよう)のセーターまで、無料の編み図があふれている。初心者向け(しょしんしゃむけ)に指導する動画も多い▼編み物の魅力は、かぎ針か編み棒と毛糸さえあればできる手軽さ(てがるさ)にある。しかも、成果が見えるのがうれしい。料理だとすぐ胃袋へ消えるし、いくら掃除(そうじ)してもほこりはたまる。でも編み物なら、手を動かした分だけ編み目が残る▼アイスランドのウナ・ローレンツェン監督の「YARN 人生を彩る糸」は、編み物が持つ多様な可能性を伝えるドキュメンタリー映画だ。絵画(かいが)や彫刻のような芸術表現として、また平和やジェンダー平等などを訴える運動として、編み物に取り組む人々の姿を描いた▼映画に登場する前衛アーティストは「かぎ針編みは私の言葉」であり、編んで(あんで?)主張するのだと話す。ニットで頭からつま先まで覆った集団と街を歩き、通行人を驚かす姿は痛快だ▼楽しく創造(そうぞう)的な一方で、編み物の世界でも分断は起きる。トランプ米大統領の1期目に、女性蔑視発言(べっしはつげん)に抗議してピンクのニット帽が盛んに編まれた。すると、逆にトランプ支持者が「MAGA」のニット帽で応戦したのだ▼歴史をみれば、編み物は仏革命や米独立戦争などで運動の象徴にもなった。疲れた身を癒やし、時に政治論争の種にもなる。編むとは、かくも深い営みなのである。