2025年2月25日 5時00分
「荒れ野の40年」から40年
統一ドイツの初代大統領になったワイツゼッカーは、終戦40年の1985年に当時の西ドイツの連邦議会で語った。「過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目(もうもく)となります」。ナチスの過去と正面から向き合うことを説いた演説は、日本では「荒れ野(あれの)の40年」(永井清彦(ながい きよひこ)訳)として知られる▼演説の終盤(しゅうばん)、「40年」の歳月が持つ意味について問いを投げかけた。世代が交代し、明るい未来が始まるのか。過去の忘却(ぼうきゃく)への警告と受け止めるべきか。「両面について熟慮することは無意味なことではありません」▼一昨日のドイツ総選挙で、右翼政党の「ドイツのための選択肢」(AfD)が躍進した。初めて第2党となった背景には、移民や難民が増えることへの不安と不満がある▼12年前の創設時、AfDは共通通貨ユーロの導入は間違いだったと主張する人々の集まりだった。その後の党内対立で反ユーロを掲げた創設メンバーらが去り、移民・難民の排外主義を訴える政党へと変わっていった。今では極右(きょくう)とも称される▼ドイツの主要政党は、極右との協力を拒否する「防火壁(ぼうかへき)」と呼ぶ方針を維持してきた。これに今月、AfDを支持するバンス米副大統領がかみついた。「防火壁を設ける余地などない」と述べ、非民主的だと批判した▼防火壁は今後、正念場を迎えるのだろうか。第1党となった中道右派は、ワイツゼッカーが属した政党でもある。演説からさらに40年がたった今、時の流れと言葉が持つ重さを改めて思う。