2025年2月24日 5時00分
ウクライナ侵攻3年
悪魔に目をつけられた農民が強欲になる。日の沈むまでに巡った土地は全て我が物になるという約束をかわし、一心不乱に歩く――。ロシアの文豪、トルストイの『人にはどれほどの土地がいるか』である。汗だくで歩き続けた末に、農民はばったり死んでしまった▼手に入れられたのは、小さな墓穴(はかあな)の土地だけ。欲得のままに動く者は、ついには滅びるという戒め(いましめ)だろうか。ウクライナには同じような民話が伝わっているそうだ。そう聞いて、あの国旗のように青い空と黄金色の大地を思い浮かべた▼ロシアによるウクライナ侵攻から3年。いま繰り広げられているのは、そんな戒めをあざ笑うかのような2大国のふるまいである▼国連安保理の常任理事国であるロシアが、国際法を犯して他国の領土を我が物にしようとする。もう一つの常任理事国である米国がその肩を持つ。トランプ大統領は、ウクライナのゼレンスキー大統領を「独裁者」と呼び、悪びれもせず支援の見返りに地下資源を求める。その米ロが、ウクライナの頭越しに進める停戦交渉とは何か。たちの悪い冗談としか思えない▼世界は、帝国主義の19世紀後半のような姿に戻りつつある、という指摘があちこちから聞こえる。その時代を生きたトルストイなら、祖国に何と言うだろう▼『文読む月日(ぶんよむつきひ)』に文豪は書きとめている。戦争が何か利益をもたらすように見えたとしても、有害な結果のほうがはるかに大きい。「われわれはそのことに気づかないだけなのだ」