2025年2月8日 5時00分

話す、書く、打つ

 〈おばあちゃんJKよりも略語使う「け」の一文字の意味は膨大〉。東洋大が募った(つのった)「現代学生百人一首」の入選作だ。秋田県の高校1年、渡部栞(わたべ しおり)さんが詠んだ。秋田弁で「け」は食べろ、来い、痒い(かゆい)の意味を持つそうだ。祖母と孫の楽しそうな会話が浮かぶ▼方言の豊かさだけでなく、日本語の独自性も感じる。わずか26文字に、ひらがなと漢字、アルファベットが盛り込まれている。これにカタカナを加えて4種類を使い分ける日本語は、なんと複雑な文字体系だろう▼歴史をみれば、日本にはもともと文字がなかった。5世紀ごろに中国から伝わった漢字の音を使い、日本語を表記し始めたのが万葉仮名だ。それからひらがなが生まれたのは、早く多く書けるからとの説もある▼私も急いでメモを取るときはひらがなを使う。聞いた音をそのまま書き留めていると、発音記号でもあるのだと感じる。便利なひらがなができて1100年以上たった現在も、漢字が残っているのが不思議に思えてくる▼今野真二(こんの しんじ)著『日本語と漢字』を読み、難しい漢字が消えない理由がわかってきた。漢字は日本語の文字化過程で中心に位置し、その歴史とともにあった。ひらがなとカタカナは「微調整」のためのものだという▼まず話し言葉があり、漢字を当て字にして書き言葉ができ、ひらがなが生まれた。いまはスマホでSNSなどに書くのを「打ち言葉(ことば)」と呼ぶそうだ。時の波に洗われながら、日本語は次の世代へ伝えられていくのだろう。