2025年2月3日 5時00分
トランプ語法
ユダヤ人の言語学者クレムペラーによる『第三帝国の言語』を読み返している。ヒトラー時代の迫害をくぐり抜けた彼は、ナチスの語法を当時ひそかに書き留めていた。特徴の一つは形容詞にある▼きわめて自明な党の行為にも、歴史的な・先例のない・永遠の、といった修飾をつける。大言壮語(たいげんそうご )やうそであっても、繰り返されれば圧倒されてしまうと書いている▼安易に比較することは避けるべきだろう。ただどうしても思い浮かぶのは、トランプ米大統領の言葉遣いである。「歴史的な大統領令に署名する」「米国はかつてなく偉大で強く、はるかに例外的になる」。就任演説の一節だ。言葉の矢印が己(おのれ)に向かっているだけならまだいい。しかし見過ごしてはいけないものもある▼先日、トランスジェンダーに関する大統領令にトランプ氏は署名(しょめい)した。生まれた時と異なる性別を軍人が表明するのは、「高潔かつ誠実で、規律ある生活」を送るという誓いに反する、とされている。理不尽な矛先が向けられているのは、全体の0・7%にあたるという▼数の多少ではない。自分は該当(がいとう)しないと傍観(ぼうかん)しているうちに、気づけば火の粉が降りかかる。共に消してくれる人はもういない。それが歴史の教訓だ▼粗野で野放図(のほうず)な発言に慣れてはいけない。クレムペラーは言う。「言葉は極(ご)くわずかな砒素(ひそ)の一服のようなものかもしれない(略)何の利き目も現わさないように見えはするが、しばらく時間がたつと、やはりその毒性は現われる」
19歳未満へのジェンダー関連治療を制限へ トランプ氏が大統領令に署名
トランプ大統領はこの命令で、ジェンダー(性自認)関連治療に対する連邦支援を終了すると述べた。また、保健福祉長官に対し、「子どもに対する化学的・外科的(げかてき)切断を終わらせるため、あらゆる適切な行動を取るよう」呼びかけた。
命令は、二次性徴(思春期)抑制剤、エストロゲンやテストステロンといったホルモン、外科的処置などによる治療を対象としている。
この命令は、法的な挑戦に直面する可能性が高い。