2025年2月4日 5時00分
老化研究の現在地
将棋の十七世名人、谷川浩司さんは昨年4月に叡王戦第2局の立会人を務めたとき、ふと気づいたという。対局者の藤井聡太さんと伊藤匠(たくみ)さん、それに記録係の上野裕寿(ひろとし)さんの年齢を合わせると62だった。「自分が現役棋士三人分の年齢に達していたことに衝撃を受けました」▼谷川さんは対談本『還暦から始まる』で、京大教授の山中伸弥さんと老化について語り合った。「頭の瞬発力」が落ちたと話す谷川さんに、山中さんは自分も「アイデアの枯渇」を感じると応じた。ともに1962年生まれで、築いた道を次世代へつなげようと前向きだ▼山中さんは「いま生まれる子どもが百歳まで生きる可能性はかなり高い」とも話した。米企業の上級科学アドバイザーとして、iPS細胞の技術を用いた老化研究をしている。医療や介護に頼らない健康寿命も延びていくと予想する▼個人的には老いることより、老化で病気やけがをする方が怖い。「元気で長生き」の実現へ向けて、研究は進む。この10年で30万本以上の論文が発表され、700以上のベンチャー企業が巨額を投資したそうだ▼V・ラマクリシュナン著『Why We Die 老化と不死の謎に迫る』は、ノーベル化学賞の受賞者が最新の知見を解説した「現在地」だ。怪しげな薬が出回る状況を案じて執筆したという▼いわく、最も効果的でお金もかからず、副作用のない老化対策がある。それは「節度ある食事、運動、睡眠」。なんだと思いつつ、できないものだ。