2025年3月28日 5時00分
真摯に受け止めます
今晩は帰宅が遅くなるかも、と家族に告げる。「まさか、飲みに行くわけじゃないよね」。ギクリ。そんな時、こう答えたらどうなるか。「現時点では、飲酒を伴う特定の活動は想定されていません」。こってり追及されるだろう▼でも政治の世界では、そんなふうに人をくった言葉がふつうだ。イアン・アーシー著『ニッポン政界語読本(どくほん)』は、「誤解を招いたならば遺憾です」といった例をあれこれ挙げながら、皮肉たっぷりに「正しく理解するには、日本人であっても、特別な訓練が欠かせません」と書いている▼これも典型の一つだろう。「真摯(しんし)に受け止めたい」。おととい、兵庫県の斎藤元彦(さいとう もとひこ)知事は記者会見で、じつに約30回にわたって繰り返した。内部告発への斎藤氏の対応は違法だ、とする県の第三者委員会の認定を拒んだうえで、「指摘は真摯に……」▼翻訳すれば、従うつもりはない、ということだろう。自らの手で第三者委を設けて(もうけて)おきながら、意に沿わない結論には応じない。応じないのに、口では「受け止める」と言う。二重のねじれがある▼第三者委は、先行した県議会の報告書について、斎藤氏が「正面から受け止める姿勢を示していない」と苦言を呈していた。いったい、どんな思いでこの一文を読んだのだろうか▼真摯という言葉を辞書で引くと「真面目で直向き(ひたむき)なさま」とある。ネットで会見を注視し過ぎたせいか、寄る年波(としなみ)なのか。目がかすんだようだ。「鉄面皮(てつめんぴ )で内向き(うちむき)なさま」と一瞬見えた。
兵庫県の告発文書問題を調べた県の第三者調査委員会のパワハラ認定を受け、斎藤元彦知事は27日の定例記者会見で、自身に対する処分について改めて否定し、「風通し(かぜとおし)の良い職場づくりに向けて努力するのが私の責任の果たし方」と繰り返した。過去に斎藤知事のもとで懲戒処分を受けた県職員との整合性を問われると「懲戒処分は規定に基づいて手続きするということ」と述べるにとどめた。