2025年3月22日 5時00分
女性服のポケット
携帯電話に財布、小銭(こぜに)、鍵の束(たば)。空港の保安検査場でズボンのポケットから取り出す男性客を見るたび、こんなに入るのかと感心する。一方で、女性の私が金属探知機に通すのは全部を収めたバッグひとつだ。服のポケットはだいたい小さすぎるか、飾り用で物が入らない▼ポケットの存在が気になり始めたのは、昨年1月に羽田空港(はねだくうこう)で起きた航空機事故がきっかけだ。緊急脱出の際にポケットに貴重品(きちょうひん)を入れて避難した乗客がいて、その機能が注目された。緊急時にバッグが持ち出せないなら、便利に使えるポケットが欲しい▼『ポケットと人の文化史』を著した米学者のハンナ・カールソン氏は、ニューヨークで勤務先のビルから避難した際の経験が研究の動機(どうき)だったと書いている。同僚男性らはスーツのポケットに携帯電話や財布を入れていたのに、自分を含めた女性は外で途方に暮れたと▼同著によると、洋服の「ポケット格差」は19世紀前半に始まったという。男性服は、近代化された製造過程でスーツのポケットが標準になった。女性服は「見ばえが悪くなる」とメーカーが嫌がった(いやがった)▼ジーンズやスーツが女性に普及しても、コストを抑えるために機能的なポケットは付かなかった。デザインなどの流行にも左右され、「現れては消える」の繰り返しだったとか▼この春からスーツを着る人も多いだろう。ポケット付きの女性服も増えてはきたが、まだ少ない。内ポケット(ないぽけっと)もとなると、さらにまれだ。選択肢は多い方がいい。