2025年3月21日 5時00分
挑戦を続けたミロ
ジュアン・ミロ(1893~1983)は、20世紀(せいき)を代表するスペインの画家(がか)である。カタルーニャ州バルセロナ出身で、1930年代のスペイン内戦からフランコ独裁政権が終わるまで、反ファシズムの姿勢を貫いた。作品で頭に浮かぶのは、鮮やかな色彩(しきさい)と記号のようなモチーフだった▼だった、と過去形にしたのは、ミロが積み重ねた軌跡を知ったからだ。東京都美術館で開催中のミロ展を見て、年齢と共に大きく変化していった画風(がふう)に驚いた。周囲の鑑賞者からも「これもミロなのか」と声が漏れたほどだ▼10代で描いた風景画は、印象派の影響がうかがえる。20代からは植物(しょくぶつ)の小さな葉にまでこだわる細密(さいみつ)描写に。さらにシュルレアリスムへ移り、独自の記号体系を確立した。50代で本格的に陶器や彫刻に取り組み、亡くなる直前まで続いた▼挑戦や探究のたまものだが、それを抵抗と逆境(ぎゃっきょう)の中で続けたのに驚く。スペインでは独裁政権が75年まで続き、抵抗の拠点となったカタルーニャは当局の厳しい弾圧(だんあつ)を受けた。ミロも故郷を離れ、隠れるように創作した▼82歳の時のインタビューでは、独裁政権への反抗で「自由で激しいもの」を作品で伝えたことが最も重要だったと語った。その激しさは、ピカソのような「技巧(ぎこう)」がなかったから生まれたのだとも(『ミロとの対話』)▼90年の生涯でミロが残した多様な作品に、人間とはいつまでも進歩できるものなのだと前向きな気分になった。挑戦を続ければの話ではあるが。