2025年3月19日 5時00分
ガザの空
イスラエル軍とハマスの停戦がガザで発効したのは、今年1月19日だった。路上でパレスチナの旗(はた)を掲げ、抱き合って喜ぶ人々の映像を見て、少しだけほっとしたのを思い出す。それまでの戦闘では、4万7千人以上が犠牲になった。恒久的な停戦につながってほしいと祈った▼停戦発効の日、ガザに住む朝日新聞の通信員ムハンマド・マンスールさんらが、現地の人々の声を伝えている。故郷に戻れるのは楽しみだ。地獄のような日々だった――。なかでも、特に心に残る言葉があった。「壊れた家に屋根はない。それでも、空を見上げて眠りたい」▼語ったのは、南部に避難した50代の男性である。四方を高い壁と海に囲まれるガザは「天井のない監獄(かんごく)」と言われる。そこで自宅は破壊され、屋根がなくなってしまった。でも俯かず(うつむかず)、立ち上がる強さは胸を打つ▼あれから2カ月。イスラエル軍がきのう、ガザで大規模な攻撃を始めた。イスラエルは「ハマスが人質解放を拒んだ」と非難するが、またガザで多数の民間人が犠牲になってしまう。人々の絶望を思うと言葉もない▼これだけの苦しみを前に、国際社会に止めるすべはないのか。イスラエル首相に唯一もの申せると思われるトランプ米大統領は、停戦維持に動くべきではないか▼マンスールさんは停戦の発効後、8カ月ぶりに南部の自宅を訪ねた。変わり果てた街で、目を引かれたのは空だった。「青い空が、奇妙に広い……私たちに残されたのは思い出だけなのだ」