2025年3月13日 5時00分

約束は希望となりうるか

 人間とは、約束ができる動物である――。哲学の世界には古くから、そんな言い方があるそうだ。20世紀の思想家ハンナ・アレントも著書『人間の条件』で、約束の力について深い論考を展開している▼彼女いわく約束とは、不確実性に満ちた未来を、現在の確かな行為に変えるものなのだという。誤読の自由を許してもらえば、それはアレントにとって始まりの意味である。あるいは「希望」という言葉も記されている▼さて、この約束はどうだろう。ロシアの侵略を受けるウクライナが、米国に同意した。「30日間の即時停戦」を受け入れるという。世界を驚かせたホワイトハウスでの決裂から10日余り。戦争の終結に向け、薄氷(うすごおり)に踏み出す一歩となるだろうか▼次なる焦点は、ロシアの対応である。クリミア侵攻までさかのぼれば、プーチン氏は武力にまかせ、幾度も自らの言(こと)を破ってきた。ウクライナがもう二度と攻め込まれない保証が必要だろう。そうでなければ、ロシアを利するだけの停戦合意になってしまう▼過去3年間で、非道に奪われたウクライナの命は、民間人だけで1万2千人にも上る。少なくとも669人の子どもが殺されたとの報告もある。強く思う。このあまりにも悲惨な現実を、一刻も早く、終わらせねばならない▼話を戻すと、約束とは支配や服従とは違う。相手の存在を認め、信頼があってこそ、初めて生まれるものである。それはまた、停戦の条件とも重なる。アレントの言う「希望」を信じたい。