2025年3月8日 5時00分

学問の自由とは何か

 憲法が保障している「学問の自由」とは何か。国家は、たとえ内容が都合悪かろうとも、学問のあり方に干渉してはならない。そういう趣旨(しゅし)だ、と憲法制定時(せいていじ)の担当相だった金森徳次郎(かなもり とくじろう)は述べている▼日本学術会議を巡る法案が閣議決定された。歴代の会長がそろって懸念を示すのも、もとを辿れば(たどれば)、この「学問の自由」に行き着くのだろう。法案が通れば学術会議は、首相が任命した外部委員から評価を下されることになる▼「国がお金を出すからには、学術会議も国民への説明責任を果たしていただかなくては」。自民党には、そんな声があったそうだ。一般論としては分からなくもない。だが、いったいどの口が言うのかと思う▼問題はそもそも、自民党の菅義偉(すが よしひで)首相が会員6人の任命を拒んだことにある。6人らは理由を明らかにするよう、公文書の開示を求めて裁判中だ。国はそこで、任命拒否は菅氏が直接判断し、官僚は結果を伝えられただけだとして、理由のわかる文書はないと主張している▼菅氏は今も具体的な理由を明かさぬままだ。政府与党は、自らは果たすつもりのない「説明責任」を掲げ、相手に突きつけている。いかにも道理にあわない▼金森徳次郎は戦前、天皇機関説論者とみなされて職を失った。糾弾の声は初め「奥山の木の葉の下から水がチョロチョロと流れ出る」程度だったそうだ。それが沢(さわ)となり、奔流(ほんりゅう)となって「学問の自由」を押し流す。90年前にそんな出来事があったことを書き留めておく。