2025年3月6日 5時00分
ナポレオンが残した言葉
エルバ島に流されていたナポレオンが島を脱出(だっしゅつ)し、パリへ進軍した。上陸後を伝えるフランスの新聞は、見出しで「暴君(ぼうくん)」と呼んだそうだ。道程(みちのり)の途中で、それは「ボナパルト」に変わり、ついには「皇帝陛下、ただ今ご到着」。パリの街には、歓呼(かんこ)の声があふれていたという▼一度は地位を追われた者が返り咲きを果たす。その姿には、人を熱狂に駆り立てる何かがあるのだろう。「USA! USA!」。4日夜のトランプ米大統領による議会演説では、共和党議員たちの掛け声(かけごえ)が、ざらりと耳に残った。民主党議員の冷ややかさと対照的だった▼「America is back」。そう口を開いてから約1時間40分。一杯の水も飲まずにしゃべり続けるトランプ氏のエネルギーには驚くばかりだが、その内容はほとんどが、自画自賛(じがじさん)かバイデン前政権への罵り(ののしり)だった▼グリーンランドはどのみち手に入れる、とも語った。先日、ナポレオンの言葉をSNSに投稿している。いわく「国を救う者はいかなる法律にも違反しない」。力あるものが正義である、と言いたいのだろうか▼ナポレオンを引き合いに出すのなら、思い出す別の言葉がある。「三つの敵意ある新聞は千の銃剣よりもおそろしい」。「敵意」という言葉には違和感があるし、現代では「新聞」ばかりでもなかろう▼しかし政治の暴走を止められるのは、やはり言論の力なのだと信じたい。それが、米国で急速に輝きを失っているように見えるのが気にかかる。