2025年3月2日 5時00分

大船渡の山林火災

 暗闇の山が赤く燃えていた。「あのときのことを、思い出しました」。山林火災の延焼が続く岩手県の大船渡市(おおふなとし)から北に約30キロ、大槌町(おおつちまち)に住む60代の女性は悲しげな表情で言った。あの日とは2011年3月11日。東日本大震災のことである▼もうすぐまた、14年後の「あの日」が来る。山火事の報道を目にして、津波と火災で甚大な(じんだいな)被害を受けた記憶を、呼び起こされている人びとがいる。「胸が苦しくなって、涙が出てしかたがない」。この数日、訪ね歩いた三陸の地で、そんな言葉をいく度も聞いた▼女性は訥々(とつとつ)と語った。孫の男の子が最近、4歳の誕生日を迎えたこと。娘夫婦がその写真を送ってくれたこと。可愛くて(かわいくて)、友人たちに見せようと思ったけれど「やめました」。何だかいま「うれしいことを話すのは申し訳ないような気がして……」。痛みを知る人の言葉はなんでこんなにも、やさしいのか▼消火活動の拠点がある陸前高田市(たかだし)では、何台ものヘリコプターが広場で待機していた。数え切れぬほどの消防車も行き来している。多くの人が駆けつけ、黙々と、自らがすべき仕事を続けている▼大船渡では町中からも、山に白い煙が立ち上っているのが見えた。公民館には、不安そうに身を寄せ合う被災者たちがいた。差し入れを持ち寄る近所の人もいる▼「もう、どうしたらいいんだべな」。白髪の男性がため息まじりに、つぶやく。何の言葉も継げない(つげない)自分が、もどかしい。一刻も早く鎮火してほしい。切にそう願う。

岩手県大船渡市の山林火災は発生から2日で4日となりますが、延焼が続いています。焼失した面積は1日朝の時点でおよそ1400ヘクタールにのぼり、消防などは引き続き住宅に燃え移らないよう消火にあたっています。

大船渡市で先月26日に山林火災が発生してから2日で4日となりますが、延焼が続いていて、赤崎町合足地区や三陸町綾里の広い範囲が焼け焼失した面積は1日朝の時点でおよそ1400ヘクタールにのぼっています。