2025年3月1日 5時00分

花粉症が歩んできた道

 早朝、自分のくしゃみで目が覚めた。花粉症の季節の到来である。鼻水と目のかゆみに今年はのどのイガイガも加わった。とりあえずは対症療法でしのごうと、処方された抗ヒスタミン薬を飲み、目薬(めくすり)を差し、鼻の薬を噴霧(ふんむ)した▼充血した目と鼻声(はなごえ)を対面相手に説明する時、今は「花粉症でして」で済む。だが、ここに至るまでには長い道のりがあった。40年前に出た『スギ花粉症 予防と最新治療法』を読み、先人の苦労を知った。著者の古内(ふるうち)一郎は耳鼻咽喉(みみはないんこう)科学の研究者で、鼻アレルギーの権威だった▼日本で初めてスギ花粉症が報告されたのは1964年だが、長く世の中で認知されなかったそうだ。患者には「何だ、鼻ばかりかんで」とか、「精神がたるんでいるから、そんな病気になるんだよ」といった心ない言葉が投げられたという▼正しい知識が広がったのは、79年の患者の急増が大きい。小紙も同年4月、スギ花粉が異常発生し、苦しむ患者(かんじゃ)たちが交流団体を立ち上げたと大きく報じた。「『怠け病(なまけびょう)』とは/はなはだ心外(しんがい)」の見出しに当時の空気がうかがえる▼古内が紹介した「最新治療法」をみると、本質は今もあまり変わっていないようだ。症状を抑えたくて逆立ち(さかだち)するなど患者の涙ぐましい努力も載っているが、効果は不明だ▼結局、根本的な治療がしたければ季節が来る前から免疫療法を始めて根気強く(こんきつよく)続けるのが効果的なのだろう。わかってはいるのだが、毎年くしゃみが止まると忘れてしまうのが情けない。