2025年3月30日 5時00分
軍事政権と天災
建設中の高層ビルが崩壊して逃げる人々。高層階のプールから流れ落ちる大量の水。一昨日の地震発生後、タイ・バンコクで撮られた映像がSNSへ次々と投稿された。震源は、そこから約千キロ離れたミャンマー中部だ。同国軍発表の死者・行方不明者の数は増え続けている▼ミャンマーは4年前のクーデター以来、軍事政権下にある。思い出すのは17年前、サイクロンが直撃した際の異常な状況だ。あのときも軍事政権だった。外部からの目を嫌い、国際社会の人的援助を約3週間も拒み続けた▼当時、被災地入りを試みた同僚は「検問所で国軍兵士に『なぜ来た。何か撮ったか』と聞かれて追い返された」と嘆いていた。死者・行方不明者は約14万人にのぼり、軍政は国際的な非難を浴びた▼今回は、発生早々に国際社会に支援を要請した。自力では対応できないという判断だろうか。民主派や少数民族の武装勢力による抵抗で内戦は長期化している。国際的には経済制裁を受けるなど、孤立状態が続く▼軍政に抵抗する人々の詩やエッセーをまとめた『いくら新芽を摘んでも春は止まらない』を読んだ。〈息子よ、安らかに眠ってくれ。/血まみれの民主主義をしるそう。/(略)舗道を真っ赤に染めた花々は/平和をもとめる歌をうたっているではないか。〉(エーポーカイン「殉死した息子よ」)▼弾圧で口を封じられてきた人々に、自然災害が苦難の追い打ちをかける。支援要請は、「人命最優先」の意思表示だと信じたい。