2025年3月23日 5時00分

卒業するあなたへ

 チンパンジーがいた。名前はアイ、アキラ、マリ。性格も、才能も、かなり異なる“3人”だった。京都大学霊長類研究所の不正経理問題で、懲戒解雇された元特別教授、松沢哲郎(まつさわ てつろう)氏が著書『チンパンジーの心』に書いている▼賢いとされたのは、アイだった。実験で、物の名前を覚えるのがもっとも早かった。答えを間違えると、なぜ違ったかを自発的に学習した。アキラも別の意味で優秀だった。打たれ強く、間違えてもへこたれない。試行錯誤(しこうさくご)を自ら繰り返した▼劣等生と呼ばれたのはマリだった。不正解のブザーがブブーと鳴ると、もうそれだけで頭を抱え込む(かかえこむ)。これでは実験にならない。彼女は研究から外され、動物園へと移された▼チンパンジーの話とはいえ、切なくなる。人間はどうしてこうテストで点数をつけ、優劣を決めたがるのか。ときに順位付けが必要なのは分かるけど、困ったことに、私たちはそれがすべてと思いがちだ。物差し(ものさし)はほかに幾つもあるのに▼卒業式の季節である。受験や就職がうまくいったという人は、おめでとう。努力が報われ、よかった。そうでなかった人もいるだろうが、知っておいてほしい。この社会、あなたを応援する人は、あなたの思っている以上にたくさんいる▼話を戻せば、落伍(らくご)したマリは、その後、群れを率いるリーダー格になった。松沢氏は記す(きす)。「ヒトと同様に、学校での成績と、社会へ出てからの成功は別のことのようだ」。彼女もまた、多くの応援団に励まされたか。