2025年3月15日 5時00分

ズレのある首相

 思いもよらないズレだった。1999年、NASAが打ち上げた無人探査機が、火星軌道に入るためのエンジン噴射後、交信を絶った。後日の調べで判明したのは、本来の高度より100キロも低い軌道入りだったこと。なぜ、そんな間違いが起きたのか▼原因は、メートル法とヤード・ポンド法の混在だった。NASA内(ない)の二つのチームが、互い(たがい)の使う単位の違いに気づかないまま、探査機に指令を出していた。1ヤードは約0・91メートル。地球で生じた9センチほどのこのズレが、火星に着くころには100キロに広がっていたというから、驚く▼さて、こちらのズレも相当ではないだろうか。石破茂首相が、初当選の議員15人に商品券を渡していた問題である。「法律上の問題はない」という弁明だが、お土産に10万円ももらった経験のある国民など、まずいない。物価高(ぶっかだか)に苦しむ世の人の理解は得られまい▼首相のイメージとの落差にも戸惑う。「最もそういうことをしないタイプの人と思っていた」とは野党議員の首相評だ。同感する人は少なくないだろう▼失望を繰り返してきた身としてはまたも期待を裏切られ、がっかりする。「自民党こそが国民の怒り、悲しみ、喜び、苦しみを一番知っている」。先日の党大会で、そう説いたのは首相本人だった。政治家とは、自らの志を信じ、その言を守ろうとする者のはずである▼自民党政治と国民感覚のズレ幅はいまや、どれほどか。9センチか、100キロか。早急の修正を求めても、どこか虚しい(むなしい)。