2025年3月14日 5時00分
カオスと秩序と円周率
川は流れる。思うがままに身をくねらせ、広大な大地を流れていく。20世紀末、英ケンブリッジ大の教授だった地球科学者ハンス・ヘンリック・ステルムは、そんな川の実際の長さと、水源から河口(かこう)までの直線距離との比を調べていて、気づいた▼川ごとに値は異なるが、平均すると、それはほぼ3・14になったという。円周率π(パイ)である。つまり川の実際の長さと直線距離の比が、円の長さと直径の比と、ほとんど同じだというのだ(サイモン・シン著『フェルマーの最終定理』)▼自然は不思議である。異論もあるようだが、気ままに見える川の流れに、もしも秘められた規則性があるとすれば面白い。「万物は数なり」。古代ギリシャの天才ピタゴラスは、音楽の和音も、惑星の軌道も、定められた数字が背後に潜むと喝破(かっぱ)している▼きょう3月14日は円周率の日。あるいは数学の日と呼ばれる。もっと言えば、これも偶然の妙なのか。アインシュタインが1879年に生まれた日だという▼円周率は無理数で、小数点以下、規則的になることなく、どこまでも数字が続いていく。昨年6月には202兆桁(けた)まで判明した。読み上げようにも、1秒に3桁のペースで読んで200万年かかるらしいから、どうしようもない。なるほど、確かに無理な数である▼自然がときに見せる整然とした秩序の顔には驚かされる。でも、この世界はやはり、混沌(こんとん)としていて、すっきりとは割り切れない。おそらくその両面を、πは教えてくれている。