2025年1月30日 5時00分
大地が消える恐怖
突然、大地(だいち)が割れた。住宅の立ちならぶ町なかで、道路に巨大な穴が生じた。走っていたトラックが落ち、運転(うんてん)していた男性が1人、閉じ込められた。ふだんは多くの車や人が行き交う日常が、瞬時に奪われてしまった▼埼玉県(さいたまけん)八潮市(やしおし)の県道で起きた陥没(かんぼつ)の現場を、上空から見た。本社ヘリに乗って、羽田空港から10分余り。赤色(あかいろ、せきしょく)の消防車が何台も並んでいるのが、目に入ってきた。住民たちの姿が消えた路上には、恐ろしげな深淵(しんえん)が二つ、黒い口を大きくあけている▼消防隊員らがゴンドラで、穴のなかに入っていくのが見えた。夕日(ゆうひ)がまぶしく、影が長くのびる。視線を少し上げれば、近くに市役所の建物があり、学校や工場があって、公園の木々が見えた。小さな屋根の家々がいくつも重なりあう。その一つひとつに、多くの人の温かな暮らしがあるのだと感じる▼200人近くもの住民は深夜、予期せぬ避難を余儀なくされた。「家がどうなるのか心配」。40代の女性は本紙の取材に語った。こんな状態がいつまで続くのか。不安は尽きまい▼JR博多駅前で9年前、巨大な穴があいたことを思い出す。全国では年間1万件の陥没があるという。その数の多さに驚く。下水道(げすいどう)の老朽化(ろうきゅうか)が進めば、今回のような事故は、ほかでも起こりうるらしい▼私たちの当たり前の現実が、揺らいでいる。この国の暮らしを支える土台とは、それほどにもろく、危ういものだったか。自分の立つ足元が、急に消えてしまうことを想像する。怖い。
埼玉県八潮市の県道交差点で道路が陥没しトラックが転落した事故で29日、地元消防による運転手とみられる男性1人の救助活動は難航している。県によると、男性は74歳。陥没でできた穴には水がたまり、運転席部分は土砂に埋まっている。当初、男性は意識があり会話ができる状態だったが、28日午後1時ごろを最後にやりとりができていない。
県警によると、未明の作業中、現場近くの道路で新たに陥没が発生した。新たな陥没は当初、幅3メートルほどだったが、29日午前8時ごろには約10メートルに拡大。地下にはガス管が通っており、県警はパトカーなどで現場から半径200メートル以内の住民に市役所への避難を呼びかけた。
県担当課の説明では、県道の地下約10メートルにある下水道管が腐食し、破損した部分に土砂が流入。地中(ちちゅう)に空洞(くうどう)が発生し、その上を車両などが通った重みで陥没した可能性がある。県はさいたま市など県内12市町に下水道の利用自粛を呼びかけた。計約120万人に影響するとしている。