2025年1月28日 5時00分
米国務長官の名前は?
魯迅(ろじん)の本名(ほんめい)は周樹人(チョウシューレン)である。20世紀の中国を代表する作家はどうしてこの筆名(ひつめい)を用いたか。「魯」には愚鈍(ろどん)の意味がある。「迅」とは素早いことを指す。相反(そうはん)する含意(がんい)の組み合わせに、矛盾に満ちた世を鋭く描いた作家の機知(きち)を感じる▼さて、こちらはどうか。中国政府が、ルビオ米国務長官の中国語による表記を変更した。これまで「盧比奥(ルーピーアオ)」と書いていたのを「魯比奥(ルーピーアオ)」にしたという。盧と魯。いずれも似た発音の当て字だが、どんな意図があるのだろう▼対中批判の急先鋒(きゅうせんぽう)で知られるルビオ氏は5年前、中国の制裁対象となり、入国(にゅうこく)も難しい状況だった。制裁リストには盧比奥と記されている。第2次トランプ政権の外交トップに就き、さてどうなるかと注目されるなかでの「改名」である▼先週、中国外務省の記者会見でさっそく質問が飛んでいた。「名前を変え、制裁の解除ですか」。報道官は涼しい(すずしい)顔で答えた。「気づきませんでした。重要なのは英語名です」▼うがった見方をするのはやめておこう。ただ、興味を引かれるのは、そこに漢字というものの妙を感じるからだ。おそらく米欧の人々には理解しがたいことだろう。日中の文化の重なり(おもなり)があればこその面白さ、と言ったら大げさか▼布什(プーシー)はブッシュ、奥巴馬(アオパーマー)はオバマ、拝登(パイトン)はバイデンの各氏を示す。トランプ氏は「川普(チョワンプー)」と書く人も多いが、中国政府はちょっと堅い感じで「特朗普(トーランプー)」とする。世界を揺るがす米中関係である。些細(ささい)な話であっても、何か気になる。