2025年1月26日 5時00分

「楽しい日本」と観光

 ローマ・カトリック教会にとって、今年は25年に一度の「聖年(せいねん)」に当たる。ゆるしと和解を象徴する年とされ、1300年に公式行事となった。バチカンのサンピエトロ大聖堂には、聖年にだけ開く「聖なる扉」がある。昨年12月24日に教皇(きょうこう)が開き、2週間で約55万人が通った▼バチカンのおひざもと、観光大国のイタリアにとって聖年はかき入れ時だ。巡礼で約3200万人がローマを訪れると見込む一方で、オーバーツーリズムの問題も。割安な(わりやすな)賃貸物件(ちんたいぶっけん)が民泊(みんぱく)に転用され、低所得層が閉め出されている。ローマの友人は「アパートの外階段(外かいだん)に観光客が座って食べ散らかし、ゴミもそのまま」と嘆く▼ひとごとではない。昨年の訪日(ほうにち)外国人客数は、速報値で過去最多(さいた)の約3687万人、消費額も約8兆1400億円に及んだ。政府は2030年に6千万人、15兆円を目指す(めざす)。石破茂首相も施政方針演説で「地方創生に繋(つな)がる観光産業の活性化を進める」と述べた▼日本を五感で楽しんでもらうことで、理解が進む。観光の醍醐(だいご)味でもあるが、民泊がらみの苦情や度を越えた混雑などへの効果的な対策もなく、突き進んでいいのだろうか▼インバウンドにとっては円安で「楽しい日本」でも、地元住民には悪夢になり得る。経済的な利益ばかりを期待するのは危うい▼観光の語源は、中国の古典「易経(えききょう)」にある「国の光を観(み)る」だという。異国の美点や文化を知ることは自国にも役立つ(やくだつ)。だが、暗い影がさせば光の輝きを損ねて(そこなって)しまう。