2025年1月24日 5時00分
イチローさんの殿堂入り(でんどういり)
子どもの詩を集めた『ことばのしっぽ』から、小学6年の神野温子(かみの あつこ)さんの作品を引く。〈打ち消しの漢字 非・無・未・不/じゅく語にすると/良い意味の言葉が あまりない/非行・無理矢理・未完成……〉。確かにそうかもしれない▼でも、あの人の中では違った。米野球殿堂入りを果たしたイチローさん。おととい、選考の投票で満票に一つ足りなかったことを問われ、答えた。「やっぱり不完全であるというのはいいなって。生きていくうえで、不完全だから進もうと出来る」。いかにもイチローさんらしかった▼大リーグ通算3089安打、10年連続200安打。輝かしい記録の数々を改めて目にして、打席に入った時の白刃(はくじん)を振りかざすようなあの一連の「型」を鮮やかに思い出す。走攻守。すべてにおいて、求道という言葉がよく似合った▼自分なりの理想像をどこまでも追い求める。そのために、現役時代は普段の生活から、全身の筋肉を意識していたという。「小さいことを重ねることが、とんでもないところに行くただ一つの道だ」。数多くのイチロー語録の中でも、忘れがたい一つである▼野茂英雄((のも ひでお)さんやイチローさんらが残した足跡をたどって、いまや日本から多くの若者たちが海を渡る。きのうは、ロッテの佐々木朗希(ささき ろうき) 投手がドジャースへの入団を発表した▼無・不・未。無心で重ねる努力だけが不朽の記録を生み出す。イチローさんの殿堂入りは、未来を夢みる者へ、力強いメッセージになったことだろう。