2025年1月20日 5時00分

冬に見る桜

 何を季節外れのことを、と言われそうだが、桜の話である。「京の桜守」として知られる庭師(にわし)、佐野藤右衛門(さの とうえもん)さんが自著で語っていた。桜を見るならば、自分の好きな木を1本だけ、決めてみたらどうだろうと▼その1本を、花の咲く春ばかりでなく、夏の桜、秋の桜、冬の桜と、1年を通し、見てほしいのだという。そうすることで「人も自然をかんじることができる。きっと桜もよろこぶと思いますわ」。江戸の時代から続く造園業(ぞうえんぎょう)の16代目は、はんなりとした京の言葉で記している▼桜は、春に花が散った後、青々とした若葉が幹(みき)を覆う。夏の暑さに耐え、秋になると、黄色(きいろ)に、えんじにと葉が色づき、日が短くなるころ、はらはらと落ちる。そのときにはもう、花芽(はなめ)が生まれている。雨風(あめかぜ)や雪にも負けぬよう、堅い葉で守られた小さな芽だ▼寒さが厳しくなれば、成長をとめて「休む」。やがて春の気配を知り、蕾(つぼみ)が気張って、ふくらんでくる。その様は「笑いかけ」というそうだ。「桜のそういうところも見なければ、花ばかりが桜じゃないのやから」▼なるほど。近所にあるソメイヨシノの木を見上げる。花が開いたとき以外、ほとんど目を向けてこなかった自分に気づく。今年はこれから、じっくり楽しませてもらおう▼きょうは二十四節気の大寒である。1年で、もっとも寒さが厳しいとされる時期だ。いまこのとき、じっと、静かに、春を待つ木々を思う。家族のように、やさしい目で、それを見守る人のことも。