2025年1月14日 5時00分

トランプ氏の狙いは

 「使え、さもなくば失う」。今から20年近く前、当時のカナダ首相だったハーパー氏は盛んにこのスローガンを口にした。「使う」のは、北極圏における主権である。地球温暖化で北極海(ほっきょくかい)の氷が予想以上の速さで解けているとわかり、北極圏に注目が集まったころだ▼氷が解ければ新たな航路が開ける。海底には天然ガスや希少鉱物(こうぶつ)もある。北極圏に領土を持つ沿岸各国が権益確保(けんえきかくほ)に動き始め、ロシアは北極点海底に国旗を立てた。そんななか、カナダが北極圏で軍事演習「ホッキョクグマ作戦」をすると聞き、同行取材したことがある▼2008年の夏、北極圏には雪がちらつき流氷が漂っていた。1週間の演習中、カナダ軍幹部らが強調したのは「足跡を残す重要性」だ。主権行使とは「ここにいること」であり、いなければ他国に取られてしまうかもしれないと▼米国の安全保障上、グリーンランドが必要だ――。先週の会見でそう話したトランプ氏に衝撃を受けた。北極圏のグリーンランドを自治領とするデンマークに対して「手放すべきだ」とも▼地政学的に重要な場所で、中国やロシアの動きを牽制(けんせい)する狙いもあるのだろう。いつもの「脅して譲歩させる戦術」だという見方もある▼グリーンランドの住民は約9割が先住民で、祖先は約800年前に到達したとされる。将来的にはデンマークからの独立を望む声が多いともいうが、それを決めるのは「ここにいる」人々だ。フロリダ州の豪邸で放言するトランプ氏ではない。