2025年1月7日 5時00分
9億4千万キロの旅へ
ことしもまた、ごいっしょに9億4千万キロメートルの宇宙旅行をいたしましょう――。かつて星新一(ほししんいち)は、友人たちへの年賀状にそう記した。「これは地球が太陽のまわりを一周する距離です」。えっと思わせ、ふむと納得(なっとく)させる。SF作家の妙技である▼大ざっぱに換算すれば、宇宙船「地球号」の速度は秒速にして29・7キロ。なんとマッハ90ぐらいになるというから驚く。そんな猛スピードでも「地球の安全性は無限大(むげんだい)」と星新一は書いた(『きまぐれ博物誌』)▼なぜならば、地球ができて45億年、ずっと同じように動いてきたのだからと。移動距離の総計は9億4千万キロかける45億、つまりは……。ゼロをつけまちがえるにきまっているから、計算するのはやめておこう▼さて地球号のことしの運行は、どんなものになるだろうか。きょう「人日(じんじつ)の節句(せっく)」は、中国の古人たちが天候をみて、その年の運勢を占った日(うらなったひ)である。元日から鶏や狗(いぬ)、猪、羊(ひつじ)、牛、馬を占い、7日目が人だったとか▼1200年前、唐代の詩人、杜甫(とほ)は、曇り空が続く天を仰ぎ、新年を憂える(うれ・える )詩を詠んでいる。〈元日より人日(じんじつ)に到る(いたる)まで、未だ(いまだ)陰らざる(くもらざる)時あらず〉。漂泊(ひょうはく)の才人は何とも悲しげだ▼いまに目を戻せば、こちらは不確実性といった、暗い雲に覆われる空だろうか。ガザから、ウクライナから、年明け早々、悲惨な話も絶えない。人類はいつまで、こんな争いを続けるのだろう。言うまでもないが、問題は乗り物ではなく、私たち乗員の側(そば)にある。