2025年1月31日 5時00分

消えたいと思うあなたへ

 14歳のとき、ぼくの孤独は極まっていました――。写真家の齋藤陽道(はるみち)さんは記している。同級生に陰口を言われたり、無視されたり、ものを盗まれたりした。〈とてつもなく寂しかったです〉。「孤独から芽吹くことば」と題した短文に、悲しい文字が並ぶ▼もともと聴覚に障害があり、先生や同級生が何を言っているのか、理解しにくかった。でも、「聞こえる人のように」というプライドがあって、「わからない」という一言を封じた。会話はすれ違い、減っていった▼〈当時のぼくにとって、教室は生き地獄でした〉。消えたいな、死にたいな、そうしたら、楽になれるんだろうな。そんな「願い」を〈一回限りの切り札として大切に抱えていた〉という▼救われたのは、もう限界だと思い、普通学校から、ろう学校へと「逃げた」から。避けていた手話を学び、音声だけではない「ことば」の存在を知ったから。うれしくて、世界が「可能性をもつもの」に見えてきたそうだ▼子どもの自殺が増えている。昨年、自ら命を絶った小中高生は過去最多の527人に上った。中学生は前年より10人も増え、163人が亡くなった。なぜ……。その一人ひとりの異なる苦しみを思うと、胸がギュッと締めつけられる▼〈逃げてください〉。「生き地獄」を知る齋藤さんの語りは強く、やさしい。逃げた先にはきっと、あなたを救う未知の「ことば」があるから。だから、どうか、〈勇気をもって、時間をかけて、逃げていってください〉