2025年1月25日 5時00分

「なれ」ではなく「なれる」

 部活を終えて飲む水道水は、なぜあんなにおいしかったのだろう。渇ききったのどに、すーっと染みわたる。言葉もきっと同じだ。何げない一言が、若い心を潤すことがある。これで10回目となる「私の折々のことばコンテスト」には、全国の中高生から2万7千件を超える応募があった▼中学3年の占部由布奈(うらべゆうな)さんは、数学を習っていると、教科書を放り投げたくなることがある。そんな時、塾の先生がさらりと言っていた言葉が頭に浮かぶという。「勉強は楽しく生きるための手段だよ」。すると、やる気が湧いてくる▼高校1年の橘葵衣(たちばなあおい)さんは、人に頼るのがどうも苦手だった。小学校の先生が教えてくれた。「人と人のあいだに生きているから『人間』というのです」。頼ることはちっとも恥ずかしくないと気づいた▼高2の水谷心春(みずたにこはる)さんは、中学の卒業式で「君は社会を変える人になれる」と先生に言われたのが、心に残っている。やろうと思ったことは迷わずやりや、と。先生が自分を信じてくれていることが、言葉遣いから伝わった。「なれ」ではなく「なれる」▼たった一文字で意味は変わる。〈違いとは間違いじゃない窓ひとつひとつに別の青空がある〉。歌人の木下龍也(きのしたたつや)さんが、教室を生き抜くための歌を、と求められて詠んだ(『あなたのための短歌集』)▼青春の方程式は複雑だ。答えが見つからないまま、友達、進路、恋愛と変数ばかりが増えていく。そんな時、だれかの言葉が心の支えになるかもしれない。