2025年1月9日 5時00分

カーター氏の嘆き

 よほど、腹に据えかねていたのか。米国の連邦議会議事堂が襲撃された事件の1年後、2022年1月、ニューヨーク・タイムズに一本の寄稿が載った。「米国の民主主義が危ない」と見出しにはある。筆者は元大統領のジミー・カーター氏だった▼「私たちの国はいま、深淵(しんえん)の瀬戸際にいます」。第39代の大統領は強い危機感をあらわにした。「早急に行動を起こさなければ、私たちは内戦の危険にさらされ、民主主義を失ってしまう」▼彼が嘆いたのは、米社会の深刻な分断だった。偽情報が野放図に広がり、暴力が選挙結果を覆そうとしたという事実だった。さらには、それらを大統領の立場にある人物があおるとは、いかんとも許せなかったのだろう▼昨年末、カーター氏は亡くなった。100歳だった。米メディアの訃報(ふほう)には「凡庸な大統領であり、偉大な元大統領」といった表現もあった。失礼な言い方だが、多くの米国人が似たような印象を抱いていたようだ▼評価が高いのは、2期目への選挙で敗北し、失意のなかで始めた人権や感染症対策の活動である。「私はウソをつかない」。そう胸を張り、理想を語り、和平を説く。米国の古きリベラルを体現する存在だった▼「手遅れになる前に、違いを脇において協力すべきだ」。直球の訴えは、かの国の民たちの胸には遠く届かぬものだったか。第47代大統領の就任を目前にした首都ワシントンはいま、白い雪に覆われる。国葬が開かれるのは、現地時間のきょうである。